アガベを育てよう。LED電球とPPFDの嘘

最近アガベ チタノタ FO76とか白鯨とかいう植物を育てたいと思ってます。
いかつくてかっこいい。っていう単純な理由です。

アガベチタノタをかっこよく育てるには、水分と光のバランスが大事だと知りました。で、高い光量が必要みたいで、うちはマンションで自然光が期待できないので、室内LED育成をしたくて調べたりしていると、どのLEDライトがいいだとかたくさん出てくるんですが、結構誤解してる人が多いように感じてます。

現在流通しているLED電球とPPFD

LED電球のPPFD値はメーカーが概ね公表しています。

「光源から40cm離れた距離で測定して1000μmol/m2s(以下μmolに略)」

みたいな数字がそうです。その数値が高ければ高いほど良いのだと判断している傾向があるように思います。

だけどちょっと待ってほしい。

その数字は当てにならないぞ。

というのは、一般的に入手できるPPFD測定器というのはせいぜいコイン1枚程度の小さなセンサーで1点を測定します。

例えばLED電球が床を照らして明るい円ができるとします。その中で一番高いPPFD値が出る場所で測定して、その一箇所の数値を公称値とし製品の性能として表示しています。

でも実際に植物育成に使用する時は、一番高いPPFD値が出る場所以外の光も当然使います。そしてその一番高い数値が出る場所以外の光の強さは公表されていません。

とりあえず有名どころのPPFD公称値を見てみましょう。

AMATERAS LEDとHASU38 SPEC9

よく植物育成で使われるLED電球 AMATERAS LED。14000円ほどします。ブランディングによる上乗せが大きいです。
商品自体は特筆して優れた部分があるわけでもなく、他の有名どころの製品とさほど変わらないかむしろ若干劣るくらいです。こんなに高いのだからオリジナルの設計で国産でしょ?と思うなかれ、この界隈のものはほぼ全て中国製の汎用部品で作られています。

アマテラスと同じアルミ筐体、リフレクターに集光レンズを追加したHasu38 spec9。アマテラスと比較してコスパが非常に高いです。この構成の物はAliExpressでもよく売られています。アクアリウムを主に扱うメーカーですが、集光しすぎていて前景草で絨毯を作るような用途には向いていません。ただしレンズとリフレクターを外すことによって集光を改善できますが、照射角は110度から120度くらいに分散されるため光量は当然下がります。また、カメラ越しでのフリッカー発生の報告があります。

フリッカーについて


30W以上あるようなLED電球に関しては、フレームレート60以上の動画撮影でフリッカーが発生してまうのは仕方ない部分もあります。電球型では電源回路のスペースが狭いのと、COBへの電圧が高い為、この条件で出力側に使用できる平滑コンデンサでは平滑しきれないと思っています。

この二つを比較すると、アマテラスが公称値406μmolで、Hasu38が1224μmolです。
数値だけ見るとHasu38の性能は圧倒的に見えます。

しかしながら実測値でアマテラスが18.5Wでハスが22Wという違いはあれど、常識的に考えて現存するLEDチップに3倍もの性能差があるわけもありません。

仮に中華製COBとCree、Bridgeluxなどの有名COBを比べたってこんな差は出てきません。中華製COBもBridgeluxのダイオードを使用してビルドされたCOBがほとんどだからですね。

COBとは


Chip On Board(チップオンボード)の略で、COB LEDは基本的に、製造業者が複数のLEDチップ(通常は9個以上)を基板に直接結合し、単一のモジュールを形成したものです。 COBに使用される各LEDチップは従来のようなパッケージは行われないため、実装の面積を節約できます。

ちなみにハスのレビュアーによるとアマテラスは中華製COBで、HasuはBridgelux製COBらしいですが、蛍光体の調整や価格のことを考えても、私はBridgeluxのダイオードを使用して中国で組み上げた中国製COBだと思っています。(調べたところロットによって台湾または中国製のチップが使われているとのことでした)他にもやたらとHasuを持ち上げてアマテラスをこき下ろすようなレビューをわざわざ分解してまで書いているので正直サクラかと疑ってしまいました。

まあまあ話を戻して、じゃあなぜそんなに差が出るかというと、そこにはカラクリが存在します。

測定するセンサーに集中するようにLED素子が出す光子をレンズやリフレクターを使って集めています。
まるで太陽光を虫眼鏡で集めて紙に火をつける実験。

レンズには増幅させる効果はなく、どこかが高くなれば必ずどこかが低くなります。

イメージはこんな感じです。

照射角60度の光を横から見たイメージ

照射角60度のうち、中央の狭い範囲だけ光が強い。
それ以外の光子量は半分以下ならまだ良い方だと思います。下手すると1/10。

この狭い範囲だけ取って、このLED電球は照射角60度PPFD1200を超える性能ですよ!と謳うのは正直どうかと思っています。レビューでも一点だけ計測してメーカーの言った通りだと手放しに持ち上げている人が非常に多いです。

じゃあ実際に植物に使用する場合どういうことが起こるかというと

葉っぱ部分が少ない、光合成による成長領域の少ない植物単体への照射には適していると思います。

成長領域が全体にわたるような植物の場合、ある程度のサイズに育ったアガベ等であれば中心の成長点部分には1000μmolを照射し、外葉には100μmolしか照射されないといった事が起こります。外葉の数値を上げようと近づけると、中心部の数値が高くなりすぎて葉焼けを起こすかもしれません。

これでは使いづらい。自然環境ではどこも均等に照射されているはずです。
水草水槽であれば、水槽中央はコケまみれになり、水槽四隅の前景草は徒長し始めるかもしれません。

にごる悩む

アガベ チタノタをかっこよく育てるには、水分量と光のバランスが大事って聞いたよ。外側の光が弱くなると、外側の葉だけ水分が優位になり徒長しやすくなるかもね。それぞれの葉に供給される水分量は調節できないし、どの葉にもある程度均等な光を照射したいね。

強い光が一部に当たっているイメージ

中央の強い光だけ当たるように距離を離せば良いのではないか?となると、今度は外側の光を丸々捨てることになるし、そもそもそれなら初めから照射角15度や30度の設計にすれば良い、となります。

アマテラスに関しては集光レンズは使用せずリフレクターのみとなっていて、照射角が実測値で100度程度と広めなので同じようには比較できませんが、照射角が100度であるとするなら中央のPPFD値406μmolというのはやはりリフレクターで集光されているように思います。

じゃあ均一に光を出すような照明器具を選べば良いのではと言われればその通りなのですが、価格や消費電力が跳ね上がってしまったり、設置スペースやインテリアとの親和性に欠けたりするなどの理由からそう単純な話でもありません。

均一に光を出すライトとは

均等な光が植物全体に照射されるイメージ

均一さを求めるのであれば、単純に照射したい面積と同じくらいの四角い大型照明が良いですが、コスト、消費電力、発熱、騒音などの問題が出てきますし、設備も大掛かりなものとなります。

そのような問題を解消するためにE26口金のCOB型LED電球を選ぶのであれば、やはりなるべく均等に配光できるレンズを備えたものが良いと思います。

新進気鋭HeliosGreenとポテンシャルを秘めたMORSEN

大型レンズを採用したLED電球には、コスパの高さで昨年から売れ始めているHelios Greenと素性は良いものの内部の部品がイマイチで燻っているMorsenという商品が存在します。

気になったので中国のLEDメーカーにこのタイプのバルブボディの話を聞いてみたところ、写真を提供いただきました。

MORSENタイプ(左)とHeliosタイプ(右)のヒートシンク

見る限りHeliosよりもMORSENタイプのヒートシンクの方が明らかに放熱性はよさそうです。LED素子は温度が上がると性能が低下します。また電源回路に搭載されている電解コンデンサーは10度温度が上がると寿命が半分になるので放熱性能は重要なポイントです。

BRIM SOL 24Wについて

現在AmazonにてBRIM SOL 24WというHelios Greenの類似品が3000円台で販売されています。
力率が低く回路が発熱しやすいようなのですが、やはりヒートシンクによる放熱が不十分なようで、さっそく電解コンデンサーの破裂や、LED素子の焼き切れのレビューがあります。高出力LEDバルブにおける回路とヒートシンクの重要性が改めて確認できます。

ではレンズはどうでしょうか?

まずはHelios Green LEDのレンズを見てみましょう。

Helios Greenのレンズ面

このタイプのレンズは照射角36度を想定したものです。屈折面が中心から2/3ほどまであり、中心部に集光レンズを備えています。
24WでPPFDは例によって40cm距離の1点のみ1059μmolとなっています。
Hasuほどではないけど、光をまあまあ中心に集めた結果が数値に出ていかなと思います。
均等な光を出すとはいえません。

次にMorsenのレンズを見てみましょう。

Morsenが販売しているライトのレンズ面

レンズ全面に屈折面が行き渡っていて、中心部に虫眼鏡のような集光レンズがありません。
狭い範囲への集光を意図した設計ではないことがわかります。

PPFD公称値は至近距離での測定なのか化け物みたいな数値になっていて全く参考にならないですが、レビューに40cm距離でのPPFDや力率の実測を載せている方がいて、それによると40cmの距離で150μmol、力率は0.6みたいです。
力率はアマテラスと同じく低め。力率が低いからといって、その分丸々電気を捨てているという訳ではないので注意。ただし回路の発熱が上がるので、内部部品(電解コンデンサ)の寿命に影響します。

どうやら公称スペック通りではなさそうですが、Heliosと比較して4W低い事や、COBの性能差を考慮しても、同じ距離で150μmolと1059μmolといった差になるのはレンズ設計の違いが大きいと考えるのが妥当でしょう。

植物全体で見て均等な光を求めるなら、このMORSEN LEDタイプのレンズは意外と優秀で、このレンズを使用してCOBや電源回路がもっとしっかりしたものがあれば理想的だと思います。

正直、Morsenを分解してCOBの交換と電源回路の改造をすれば、アマテラスの価格換算があるとすれば3万円相当になるであろう性能のライトが作れてしまう。だって太陽と謳うアマテラスLEDよりももっと太陽に近い光学特性を持ったCOBが買えますからね…

赤線 450nmのスパイクが無く点線の太陽光にかなり近いカーブ
R12が下がっていない

CRIに関してもPPFDと同じ傾向があって、Ra98.5もありますよ!太陽光に近いでしょ!と謳っていても、実際は青色励起白色LED特有のスパイクや落ち込みがあって、波長別に見れば全然太陽光に近くはないです。

Ra98.5というのはあくまで16分割された波長の平均値の話であって、特に上記の棒グラフ左から12番目の項目に関しては殆どのLED電球が80台の数値になっています。

上記の図のような特性を持ったLED電球が市販されているのは見たことがないし、紫色励起白色LEDのCOBを購入しようと思えば、1枚で3000円くらいはするし耐久性の問題もありそうなので仕方がない部分はあるのですが。

PPFDでライトの性能を比較する違和感

重要なのはPPF

本来なら、PPFDだけではなくPPFも公開した方が良いはずです。
これはLED素子が1秒間に出す光子量で、単位はμmol/sです。PPFDとは違い積分球の中で測定するので、レンズで誤魔化そうが何をしようが出た分の光子しか測定されません。そして20WであればどんなCOBでもPPF値はいいとこ25〜30μmol/sでしょう。

それが1平方メートルに1秒間で降り注ぐ光子の数、つまりPPFDになると1200μmol/m2sを超えてくるなんて、感覚的におかしいと思いませんか?

これは一部の狭い範囲で測定した結果を掛け算して、無理矢理1平方メートルに換算したものがPPFDなわけです。
光合成に関わる指標としてならまだしも、照射範囲が限られていて、範囲内で数値がコロコロ変わる電球型LEDライトの性能を比較するのはやっぱり変だなーって思います。

それでもPPFDで比較したいのであれば、前述したアマテラスやHasu38のようなPPFD測定のレギュレーションである「光源から40cm離れたところで測定」するのではなく、メーカーが「光源から照射角60度で40cm離れた場所に照射された面の各所PPFD値を測定」して、分布図として表示するのが良いのですが、残念ながら日本国内で販売されている電球型LEDにそのような表記があるものはありません。

少なくとも電球直下、照射面の中心から5cm刻みで測定してXY分布を見せてもらえれば、そのLED電球の素性がわかると思うのですが、それを見せていないのは、植物育成LEDライトとして爆発的に有名になったアマテラスLEDが採用するPPFD測定のレギュレーションが、わかりやすい指標として標準化されてしまったため、後続商品は高価なアマテラスよりも格安でPPFDが高いとアピールしたい、つまり

PPFDベンチマーク的表記によって商品アドバンテージを保ちたい

といった意図があるようにしか思えないというのが正直な感想です。
PPFDというそれっぽい用語に踊らされないようにしましょう。

追記 おすすめできる商品が出たかもしれない

HaruDesign GL-X

このLED電球は、中央に集光するか、広い範囲に拡散するか、レンズを選んで交換することが出来ます。恐らく電球型でできる最善のシステムじゃないかと思います。実は自分もこの記事を書いてすぐにメーカー試作品のレンズ交換式電球を取り寄せて使っています。

19Wという出力は電球型では良いラインだと感じます。というのも電源回路を収めるスペースがとても狭い上に結構な電力を扱う回路なので熱の処理なども含め意外と大変なんですよ。自動車用125℃ハイブリッドコンデンサーとか付けてプラス200円とかでお願いします…

高価になりそうですがGaNを使った電源が電球型としての次のステップかもしれませんね。

まとめ

LED素子が出す光の総量は、そこそこのメーカーで同じワット数であればそんなに変わらない。

であればその決まった量の光を植物の一部分だけに強く当てるのか、植物全体に均一に当てるのかの違い。

その結果植物の育成状態にどう変化があるのか。

この辺を意識してLED電球を選択し育成してみるのが良いのかなって思います。

とりあえず私は最大PPFD値が高く無くていいので、光学特性が良さげで、アガベに照射される光の強さが均等なタイプの電球を20cmくらいの距離から当てて育ててみようかと思っています。