【比較】CPUグリス&相変化シートレビュー|PTM7950・Heilos V2・SMZ-01R・FUZEIce Plus

昨今GPU等に採用されている相変化サーマルシートHoneywell PTM7950を長期運用PCのCPUグリス代替として使用することにしました。

ただこのHoneywell PTM7950はメーカーが正式にコンシューマー向けに販売している訳ではないので、正規品かどうか確信して購入する事が出来ないんですよね。

主な入手ルートはAmazonかアリエクスプレス。これらは本物?偽物?

買って使ってみるしかない。というわけで有名所のCPUグリスとPTM7950とうたって販売されているもの、Thermalrightから販売されている相変化サーマルシートのHeilos V2を購入して実際に仕様と温度を見てみた。

相変化とは?

相変化サーマルシートとは、温度変化に応じて固体と液体の間を行き来する特殊な冷却素材。常温では固体だが、約45℃前後で柔らかくなり、隙間を埋めることで更に効率的な熱伝導を実現する。

【特徴】

  • バーンインが必須:設置後、CPUを負荷テストして一度温度を上げることで密着が強化される
  • ポンプアウト耐性が高い:硬化せず柔軟性を維持するため、長期使用でも押し出されにくい
ポンプアウトとは

ポンプアウトとは、CPUクーラー装着後にグリスやサーマルパッドが押し出される現象のこと。熱膨張と収縮の繰り返しで、素材が圧力に負けて隙間から漏れ出し、冷却性能が低下する原因となる。

【ポンプアウトが起きやすい条件】

• 高温と低温の温度差が激しい環境(ゲーミングPC等)

粘度の低いグリスの使用

【対策】

相変化シート(PTM7950 / Heilos V2):ポンプアウトに強く、定着後は動きにくい

高粘度グリス(FUZEIce Plus):粘度が高いため多少耐性がある

測定環境

お小遣いゲーミング部 テスト環境
CPUAMD RYZEN 7 9800X3D
マザーボードMSI MPG X670E CARBON WIFI
メモリAsgard Bragi II
DDR5 6000 CL28 32GB
グラフィックボードRADEON RX9070XT 16GB
ASUS Prime OC Edition
SSDLexar NM790 2TB
電源CORSAIR AX1000 Titanium
サウンドSteinberg IXO22
ケースAntec C8 Wood
CPUクーラーAntec Vortex Lum 360 ARGB
モニタLG 34WP65C-B
34インチ 3440×1440 160Hz
OSWindows11 Pro 64bit

室温は19度。ファンヒーターを18度に設定し、19度になって停止したらPCを起動、アイドル状態で5分経過後にCINEBENCH R23 マルチコア10分でHWiNFOにて測定しました。簡易水冷の設定はマザーボードのデフォルト。

結論から

相変化シートの末尾-1はバーンイン前、末尾-2はCINEBENCH10周させたバーンイン後の温度測定

Thermalright Heilos V2が比較製品中最も冷えたが長期運用向け。頻繁に冷却系パーツを交換したりする用途には向かない。バーンイン前後で温度差が10度以上あるので慌てない事。現時点でアリエクでしか買えない。

代替としてAmazonで買えるHoneywell PTM7950を謳ったPCM8500と思われる相変化シートも悪くない。

塗り直す必要がある場合はIceberg Thermal FUZEIce Plusが安くて冷えるのでおすすめ。グリスなので今回はバーンイン後の測定はしなかったが、高粘度の為かグラフを見ると経過時間とともに温度が下がっている傾向が見られるので、バーンイン後に馴染めばもう少し温度が低下する可能性あり。ただしマスキングによる薄塗りは不可能かつ独自の射出形状なためグリスガードは必須。

比較対象

製品名SMZ-01RFUZEIce PlusPTM7950(?)Heilos V2
メーカー親和産業Iceberg ThermalHoneywellThermalright
価格帯1000円弱600円前後1500円前後1000円前後
熱伝導率13.2 W/mK13.0 W/mK8.5 W/mK8.5 W/mK
種類サーマルペーストサーマルペースト相変化シート相変化シート
扱いやすさ柔らかくて薄塗りも可能薄塗り不可、剥がれてくるコツはいるが容易コツはいるが容易

製品詳細

Honeywell PTM7950(PCM8500?)

コンシューマー向けに正式販売されていないものの、Amazonやアリエクスプレスで購入できる。けど本物かどうかは不明。

今回購入した物はアリエクでPTM7950として販売されていたが、販売者の規模を考えるとHoneywellにカスタム発注したとは考えられない点、保護フィルムが白と透明であったことや、にも関わらずそこまで測定結果が悪くないことを踏まえるとPCM8500ではないかと思われる。

オリジナルのPTM7950の保護フィルムは薄い青色との情報があります。

Thermalright Heilos V2

現時点でアリエク等、海外から購入するしかない。

海外フォーラムに投稿されていたHeilos V1の測定結果があまり良くなかったためV2としてリニューアルしたと思われる。

保護フィルムは独自のものが使用されている。前モデルの厚さが0.2mmであったのに対し、V2ではPTM7950と同じ0.25mmに変化し、Honeywellにカスタム発注した可能性も否定はできないが、PTM7950であれば商品説明として前面に押し出してくるはずなので、おそらく自社開発品のような気もする。

どちらにせよ測定結果は良好なので問題なし!

Iceberg Thermal FUZEIce Plus

こちらはCPUグリス。低価格でよく冷える。

ただしSMZ-01Rや定番のMX-4のようなグリスと比べると粘度が高くマスキングとカードを用いた薄塗りはできなかった。ガムのような感じでカードでならそうとするとCPUから剥がれてしまう。ヒートガンで温めながらやってみたけど綺麗な平面が出ないので断念した。

そもそもこちらの製品は独自の形で射出されるようになっており、そのまま圧力で押し潰す使い方が前提。

コツがわからないとかなりはみ出るので、RYZENなんかではグリスガードを取り付けるのが無難。

高粘度なのでポンプアウトに対して多少の耐性はありそう。

親和産業 シミオシ OC Master SMZ-01R

登場してからかなり時間が経つ。粘度が低くとても塗りやすい。ただしその分ポンプアウトに弱く、時間の経過とともに性能低下してしまう。

しかし今となっては安くもなくいたって普通のグリス。超定番のMX-4がMX-6に正統進化したようにこちらにもアップデートを期待したい。

知名度が高く性能も知れ渡っているので今回は指標として使用した。MX-4とMX-6に関してはよくSMZ-01Rとも比較されているのでそちらを参考にしていただくとして割愛させてもらった。

まとめ

熱伝導率の表記はあてにならない。MX-4やMX-6を作っているARCTICを皮切りに、熱伝導率の表記をしない製品も増えているくらい。お気持ち察します。

グリス選びは冷却性能の差だけでなく、「使いやすさ」「長期安定性」「再塗布のしやすさ」なども大事なポイント。ただ動作確認だけしたい場合と、できるだけメンテせず長期で安定させたい場合では使用する製品が変わるのも当然です。

今回の検証結果を参考に、スタイルに合ったサーマル素材を選んで頂けたら幸いです。